耳鼻咽喉科のがん
耳鼻咽喉科のがん

鎖骨から上で頸椎、脳、目、皮膚以外にできるがんで、耳鼻咽喉科で治療します。口に出来るがんも耳鼻咽喉科で治療しますが、口腔外科でも治療をします。
現在、日本人の2人に1人はがんになり、3人に1人はがんで亡くなると言われています。これを必要以上に恐れるとちょっとした症状が不安になってしまいますし、逆にまったく知識がないと気づかずに進行したり、治療のチャンスを逃すこともあります。大事なのは、正しく認識することです。
全がんのなかで、頭頸部がんは5%程度しかなく、基本的には珍しいがんです。
毎年、日本人のおおよそ1万人に2~3人の方が新しく頭頸部がんになっています。頻度が少ないため、一般の検診や人間ドックで頭頸部がんについて検査や診察をすることはありません。
その多くが、飲酒です。お酒を飲むと、アルコールが体の中で分解されて二日酔いの原因になる物質(アセトアルデヒド)が増え、これがのどを刺激してがんになると考えられています。特にお酒をのむと顔が赤くなる方は、体質的にアセトアルデヒドが増えやすいので注意が必要です。喫煙でも同様にアセトアルデヒドを生じ、がんの原因になります。
ほか、ヒトパピローマウイルスの感染による中咽頭がんが近年急速に増えています。
鼻、のど、首、顔の深部に出来るがんであるため、鼻がつまったり、のどに違和感を感じたり、首や顔が腫れたりしますが、一般的な疾患である咽頭炎や、副鼻腔炎、リンパ腺炎などと、症状にあまり違いがないため、発見は容易ではありません。そのため、耳鼻咽喉科では、通常でも、常にがんが隠れていないかどうかを念頭において診療しています。
進行すると、服で隠せない顔や首の容姿が変化したり、息をすったり、話したり、水や食事を飲み込むことが出来なくなり、命に影響を及ぼします。
頭頸部がんには以下の種類があります。
近年減少傾向にあります。
症状は、鼻が詰まったり、少量の鼻血が長期間続いたりします。周囲に頬、口、目があるため、進行すると、頬や口の中、目が腫れてくることもあります。
初期には副鼻腔の中だけに病気が留まっている為、自覚症状が出にくく、内視鏡でも発見することができません。また副鼻腔炎でも同じような症状になるため、区別が難しいことも多いです。
代表的なものは「舌がん」です。舌がんのほとんどは、舌のわきに出来ます。真ん中にできることはほとんどありません。原因は、慢性的な歯の接触です。初めは、舌のわきの表面が白く変化して前がん状態になり、徐々にピリピリと痛むようになってがんに変化していきます。進行すると潰瘍や隆起を伴ういびつな形や、硬いしこりになり、強い痛みを伴います。
舌がんの他、歯肉、上あご(口蓋)、舌の下(口腔底)、頬の内側(頬粘膜)、口唇にもがんができることがあります。舌がんは他のがんと比べて若年で発症することがあります。
上咽頭はのどの一番上で、鼻の突き当たりにあります。
原因はEBウイルスが慢性的に上咽頭に感染することによって起こります。あまり聞いたことがないかもしれませんが、EBウイルスは、日本人のほとんどが、こどもの頃に、知らないうちにかかっているウイルスです。ただ、上咽頭がん自体の頻度はとても少ないため、どのような人ががんを発症するのかは、まだわかっていません。ほかのがんと比べて若年で発生することが多いです。
起こりやすい症状は耳の閉塞感、難聴、首のしこりです。上咽頭には中耳とつながる耳管があるため、これが詰まって滲出性中耳炎になって耳の症状が起こります。リンパ節に転移しやすいので、先に首のしこりとして発見されることもあります。進行すると鼻詰まり、鼻水に血が混じる等の症状が出現し、脳に近いため、脳神経が麻痺する症状が出現することもあります。
滲出性中耳炎や、耳の閉塞感、くびのしこり、鼻づまり等の症状が改善しない場合にはこの疾患も考えて診察を行います。
のどの中の真ん中、下の方にできるがんです。どちらも初期には自覚症状が出ません。ある程度の大きさになると、のどの違和感、飲み込みにくさ、飲み込んだときに少し痛みを感じます。リンパ節転移を起こしやすいため、のどに症状がない時期に、先に首のリンパ節が腫れて首のしこりとして発見されることも多いです。進行してしまうと、のどが閉塞して食事が通らなくなったり、呼吸が苦しくなります。
最近は、検診や、消化器疾患の経過観察のために行った胃カメラで、超早期の中・下咽頭がんが偶然発見されることが少しずつ増えて来ました。内視鏡機器の進歩で画像の解像度が高くなったことと、消化器内視鏡医が検査の時にのども意識してみるようになった影響もあります。高解像度の画像を得るには、ある程度太い内視鏡が必要ですが、残念ながら、耳鼻科の内視鏡は非常に細いので(そのかわり苦痛が少ないです)、消化器内視鏡で確認できる病変が、耳鼻科では確認できないこともあります。その場合には、消化器内視鏡医と協力して診断や治療を行います。
声帯にできるがんと、声帯より上にできるがんがあり症状が違います。
声帯にできるがんは比較的早期に声がかれるので、患者さんがご自身で早めに耳鼻科を受診されることが多く、頭頸部がんの中では早期に発見されやすい疾患です。声帯ポリープと区別が難しいこともありますが、ポリープの形がいびつだったり、声帯の表面に不明瞭な凹凸が見られます。一方、声帯よりも上にできるがんは、中・下咽頭がんと似たような経過になり、初期には自覚症状が出ません。喉頭は気管の入口なので、進行するとうまく息ができなくなります。
耳の下にある耳下腺、顎の下にある顎下腺、口の中ある舌下腺という唾液をつくる臓器から発生するがんです。
症状は、耳の下や顎の下にしこりが出来たり、口の中で舌の下(裏)が腫れたりします。痛みはほとんどないか、あっても軽度で、押すとピリッと神経の痛みを生じることがあります。耳下腺の中には顔を動かす顔面神経があるため、一部の進行がんで、顔の麻痺を生じます。
唾液腺の腫瘍は良性のことが多いですが、視診や触診だけでは良性と悪性の判断が難しいです。また、良性であっても長期間放置するとがんになるものもあります。耳の下、あご下のしこりは安易に様子を見ないで、しっかり検査をした上で、様子をみてもよいのか、すぐに治療をした方がよいのか判断します。
一部の例外を除いて、基本的にはおとなしいがんです。首の下のほうで、真ん中か、左右どちらかにすこしずれたところにしこりが出来ます。痛みはないか、あっても軽度です。自覚症状がなく、健康診断や、頸動脈や乳腺のエコー(超音波)検査などで偶然発見されることもあります。甲状腺のしこりは、割合でいうと良性のものがとても多く、超音波の様子である程度、良性か悪性かの予想をつけることが出来ますので、悪性の疑いがある場合にのみ精密検査を行います。
リンパ節に転移しやすく、甲状腺より先にリンパ節が腫れて首のしこりとして発見されることもあります。
進行すると、すぐそばにある声帯の神経が圧迫されて、声がかすれたり、吐息のように弱くなったり、急に水を飲むとむせたりすることがあります。まれですが、左右の声帯が開かなくなると、気道が狭くなり、ヒューヒューと音がする時もあります。
甲状腺がんの中で一番多い甲状腺乳頭がんのうち90%はおとなしい低危険度群で、そのうち99%の方が10年後も生存(10年生存率)しています。残りの高危険度群では、10年生存率は70%弱です。甲状腺乳頭がんが、大きさ1cm以下で、リンパ節転移や声帯の麻痺等がない場合に限り、治療をしないで経過観察を行うこともあります。
他、乳頭がん以外の甲状腺がんもあり、それぞれ特徴があります。
非常にめずらしい疾患です。鼻や口の中に、特徴的な、黒くて出血しやすい腫瘍ができます。転移しやすく、治療はとても難しいです。皮膚に出来る悪性黒色腫は皮膚科で診療します。
口やのどを鏡で見た時に、平坦で、小さな茶褐色から黒い斑点が見えることがありますが、多くの場合はメラノーシスという色素沈着であり、病的ではないものです。たまたまご自身で鏡をみて見つけてしまい、不安になることがありますが、心配であれば受診をしてください。診察をして、様子をみても大丈夫か、あるいはすぐに精密検査が必要なのかを判断します。また、様子を見る場合にも、時間をおいて再度診察に来ていただき、大きさに変化がないかどうかを確認していきます。
首にしこりができる病気は色々ありますが、首のしこりが何らかのがんのリンパ節転移であることが判明したのに、その“おおもと”の病巣(原発巣)が発見できない状態を原発不明頸部リンパ節転移といいます。
首のリンパ節転移のほとんどは、その原発巣が口の中やのど、唾液腺などにあります。しかし、口やのどは、沢山のひだや無数の凹凸があるため、内視鏡で見えない死角があります。また、がんが表面に出ずに深部に潜っていたり、目にみえない小さな顕微鏡レベルのがんが、リンパ節転移を起こすことがあります。そのため、首のリンパ節に転移まで起こしているのに、がんの原発巣が発見できない、ということが起こり得るのです。はじめは原発巣が見つからなくても、頭頸部がん治療の臨床経験が十分にある耳鼻咽喉科医が診察をすることで、原発巣が発見できることも少なからずあります。
頭頸部がんは、容姿、息をする、声を出す、飲み込むことに関わる疾患で、それらの機能を出来るだけ温存しつつQOLを保ち、がんを根治させることが治療の目標です。
ただし機能温存と根治性は時に相反するため、そのバランスがとても大事です。機能温存、QOLばかりを優先して、もしがん細胞が残ってしまえば、結局は再発して機能を失いますし、再発した腫瘍はさらに治りにくく、転移もしやすくなるので、命も守れなくなってしまいます。頭頸部がん専門医であれば、できるだけ機能温存とQOLを考えたうえで、初回の治療でがんを根治できるように、治療法を提案してくれると思います。
治療には、手術、放射線治療、薬物療法があります。
薬物療法の中には、抗がん剤や、ご本人の免疫を利用して治療をする薬もあります。治療は日進月歩ですが、基本的にはこれらを使い分けたり、併用して治療を行います。原則的には、エビデンスの高い「標準治療」がもっとも優れた治療ですが、同じがんの同じ進行度でも、がん細胞の様子や、ちょっとした病気の位置の違いや、周囲への進展状況、喫煙習慣の有無などによって手術が良い場合もあれば、放射線治療が良い場合もあります。またご本人が元気かどうか、年齢、腎臓や肺の様子etc.でも適した治療は変わります。
頭頸部がんは、リンパ節に転移しやすい性質があり、仮に検査で転移が発見されていなくても、がん細胞がリンパの流れにのって、首のリンパ節にたどり着いて隠れていることがあります。そのため、治療はがんの病巣に“ピンポイント”に効く治療ではなく、首のリンパが流れる一定の流域も治療に含まれるように考えます。また、がん細胞だけを殺して、正常細胞には副作用がまったく出ずにがんが治る、夢のような治療は現時点ではありません。
原則的には次のように考えます。
早期がん
機能温存を重視して、かつ根治を目指す。
進行がん
根治を最優先して命を守り、その中で最大限に機能温存を考える。
低侵襲手術は、首を切らずに口の中から切除する方法で、体表に傷跡が残らず、機能温存にも優れます。早期舌がんの切除や、咽頭がんに対するロボット手術などが代表的なものです。しかし、がんが一定の範囲を超えて大きくなると、取り切ることが出来ませんし、仮に取りきれたとしても、結局大きな欠損ができて機能が温存できません。
放射線治療は、切らずに治すため、拡大手術よりは機能温存に優れていますし、ある程度までの進行がんであれば、治療効果も同等です。しかし、治り方に個人差があって治療効果が予測しにくく、がんが一定以上に大きくなると、治りきらずに残ってしまいます。一部の方ですが、治療後5年10年して、がんが治っているのに、いろいろなつらい副作用(放射線晩期障害)に悩まされることもあります。
拡大切除手術は放射線治療で治せないような進行がんを治すことが出来、同時に再建手術をしてできるだけ容姿と機能を温存します。しかし、切除範囲が大きくなれば、機能温存にも限界があります。
以上、ここでは、頭頸部がんの概要と、治療の考え方を中心に記載しました。
心配な症状があれば、参考にしてください。
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